見知らぬ床屋にウォークインした話
「留学」というと非日常感満載である。あたかも夢の中にいるような。
それでも「暮らし」は「暮らし」。
たとえ夢みたいな日々だといっても、腹は減るし眠くはなるし、髪は伸びる。そう。髪は伸びてぼさぼさになるのだ。
バンクーバーには日本人向けのサービスが非常に多く存在する。
飲食、コンビニ、カラオケまで。
美容室も例外ではなく、オール日本人スタッフの店、日本語対応スタッフ在籍のお店はググればすぐにでてくる。日本人留学生の間でもおすすめの床屋どこー的な会話は結構飛び交い、こういった美容室を見つけるのは決して難しくない。
西洋人向けの髪型をアジアンボーイに適応した際の悲惨な顛末は目もあてられないので(ここ笑うとこ)私もこちらに来てはじめて利用した美容室は日本人向けのお店だった。
そして、再びぼさぼさになってきたのでテストの終了にあわせふたたび予約。冬休みモードはまず髪から。
寝坊しました。
やっちまった。予約時間=起床時間
なんだこのデジャヴ。
とりあえずバスに飛び乗って遅れる旨伝えると、そりゃぁ無理だとのこと。
派手に寝坊して一時間以上遅れてしまっていたので、無理と言われてもまぁ仕方ない。
ロッキーの件といい、時間にルーズになり寝坊が頻発するのをカナダのせいにしていいのだろうか、という葛藤、はおいといて。
ちなみに、この店に限った話か、どの美容室もそんな感じなのかは分からないが、日本人向けの美容室はやはり需要過多なようで、予約を取るのが大変難しい。この日がキャンセルとなると、次はかなり先になるそう。
どうしよう。
バスにゆられている。
とりあえずダメだと分かったところで、すでにダウンタウンに向かってしまっている。
ついてしまった。
とりあえず友人への手土産も買わなきゃだし、適当にショッピングしますか、とロブソン通りを歩く、と。。。。
あ。
床屋を見つけた。
いかにも「安っぽそう」なミテクレである。ウォークイン歓迎って書いてある。18ドルだから値段的には安い部類。その意味でも安い。でもこの見た目はその安さ以外の何かも醸し出している。そう、いかにも………なこの感じ。
考えた。
俺は何をしにダウンタウンにきたのだ。
買い物か?散歩か?違う!
これでボサボサのままUBCに帰ってきてしまったら末代まで笑いものになる。
こうしてりょーすけはウォークインすることを決めた。髪よ野となれ山となれ。
バーバー・イカニモに突入
内装は結構ふつう…なのかな?笑
ヘアカットだけでなくネイルなりマッサージなりもやってる。なんなんだここ。
ヘアカットの要望をすると5分待ちとのこと。実際5分どころではない長さだったが、良いのです。りょーすけには準備時間が必要だったのです。
問題点① ヘアカットに関する単語を知らない
日本人向け美容院にいく「つもり」(いやバスの時点で絶望的ではあったが)だったので、完全に日本語モード。邦楽とか聴いてた。しかしここは当然日本語なんて通じない。
いきなりのフル英語状態なので当然、ギアセカンド。
あまり切らず「すいて」ほしいとか、具体的な長さの説明とか、どうすればいいんだろう。
電子辞書を取り出しひたすら使えそうな単語を調べる。検索もギアセカンド。
問題点② 髪型の要望を決めてない、説明できない
0から言語のみで100%理想のスタイルを伝えることはなかなかに難しいと判断したりょーすけ。
前に訪れた美容室では(というかどこもそうだが)ヘアスタイル本が置いてあって、こんな感じでお願いします、ができた。
しかしこのバーバー・イカニモにそんな本はない。
そしてネットも満足につなげない。
どうしよう。
ただでさえとんでもない髪型にされるリスク満載のなかで、いかに言語のみならず「像」を駆使して髪型の意思を伝えるか。
仕方なくあいぽんの写真たちをほりかえす。
いつぞやの飲み会のFっくんの写真とか、
いつぞやのゼミ納会のEとさんの写真とか、
とりあえず髪型が分かりやすそうな写真ピックアップに没頭。なにしてんの俺。
いざ参る
50代くらいのおじさんが担当に。すんごいカルバンクライン臭。
とりあえずあらゆる手段で希望の髪型説明。綿密に説明。めんーーみつに。
そしてカットの時はメガネをとらなければならないのでここからぼんやりした世界になる。
次にメガネをかけるとき、鏡にうつる自分が目も当てられないものになっていないことを祈る。
さぁ、勝負のはじまりだ。俺、対、カルバンおじさん。賭けは俺の髪。
俺の説明力、あとは対話力、バーサス、カルバンおじさんの腕。
美容室といえば、客と美容師がいわば髪切りついでに会話を楽しむところ。舌勝負。負けねぇ。いんぐりっしゅ饒舌一本勝負、バーサス、カルバンおじさん。
外国相手にひよっていた俺はもうここにはいない。
こちらにきて最初の2週間で相当鍛えられた「つかみトーク」をここでくりだすりょーすけ。
日本向け美容室を寝ぶっちしたこと、カナダにきて4ヶ月であること、アジア人多すぎわろたーなこと、もろもろをたたみかける。
しかしこの人、鋭い眼光で髪をみてて反応は芳しくない。なるほど、この人、職人肌みたい。そうだ。きっとそうなんだ。
しばらくキリフキに集中していたカルバンはおもむろに口をひらいた。
…What’s your name?
……斬新―――――!!!!! ヘアカット中に名前きくて斬新―――――!!!
……でもないか。名乗るのは当然だ。こっちのコミュニケーションは特に名前から入る傾向が顕著。いやむしろ「そーいえば名前きいてませんでしたねーwww」的なのは日本特有なのかも。
しかーし名前トークもしっかりできるようになってるんだなへっへっへ、
Ryosukeてのは西欧人にとっては発音しづらいみたいでさー、なかなか覚えてもらうのに苦労したよっはっはは的な会話で切り返す。いいぞ、いいぞ俺。
すると、
キリフキブシャーが一巡したところでカルバンはおもむろに鏡の下の棚の引き出しを開けては閉め、開けては閉め。これを隣りの隣りの席の棚ぐらいまで繰り返す。
なにしてんだろーって思ってたら、すきバサミを見つけて戻ってきた。
……いやおいとけよ所定の場所に!
大丈夫かよこの店!
そしていよいよはさみが入る。
ジャキジャキー
素人でも分かる。
「豪快である。」
いや大丈夫かよ!
その時、となりに西欧人の客が腰かけた。
いやお前切る髪ないやん!!って感じの超短髪。そこに別の美容師はバリカンを入れている。
あぁ。終わった。ここはそういう店なのか。ざっくざく髪を切る感じのそういう店なのか。
このとき私はもうブログのことを考えていた。
そうだ。この経験をブログに落とそう。
カナダの床屋に、見知らぬ床屋に予約もせずウォークインしたと記そう。
そしてその記事をとんでもププーな髪型という予想通りかつ的確なオチをもって締めよう。
そしてそれを私の墓標としよう。
日本にいる誰か私の友が、これを読んでクスッてしてくれたならこの人生を全うしたと言えるであろう。いいんだ。それでいいんだ。
さよなら私のウインターバケーション。写真には写れまい。
さよなら。
そんなこんなしているうちにドライヤーが入り、終了。メガネ装着を促すカルバン。
…あれっ?結構ふつうジャン!
もちろん細かく見返せば荒っぽさもあるが、シルエット的に全く問題ない。
カルバンおじさん「どうだ!日本人っぽいだろ!アジア人の髪型にはもう慣れたもんなんだ」
泣いた。この人、アジア人向けカットに精通した人だったのだ。あの豪快さで的確に仕上げてくる人だったのだ。ちょっと韓国っぽい髪型な気もしなくはないが全くもって許容範囲。おっちゃん、あんたの勝ちだ。
こうしてまともな髪型になることができたとさ。
最後にThank you in Japanese=Arigatou! を教えて無事帰還。
こんな話から教訓じみたことをひねり出すのは難しいけど、
強いて言うと、
たった1年弱の滞在の中で日本人によるサービスに籠るのはやはりもったいないことなのかもしれない。日本人の需要の供給者は日本人だけではないのだ。
って結果まともな髪型だったから言えたことかもしれないけれど。笑
ともかく、人に見せられる髪型とともに、冬休みが始まりました('◇')ゞ