Deep Cove で遭難して展望岩場で夜を明かした話
Deep Coveの美しい夜景。
夜景。
・・・・夜景?
この夜景の写真の裏には命を張った一夜があった。
大長編。
いま、ふたたびのDeep Coveへ。
その日は
ショッピングをしたい
Trailで写真を撮りたい
じっと考えたいことがあった
という、まさにソロ充を満たさんとする背景でもって
Deep Cove に向かうバスに揺られていた。二度目の訪問である。
前回の訪問についてはこちら。
極上ドーナツを求めてDeep Coveへ - スケッチ!UBC
前回も紹介した雑貨屋群で
Tシャツとポストカードを買った。
ポストカードが1つ5ドルというのには面食らったがここでしか買えないだろうからと思い切った。
そして前回行き損ねていたTrailに入る。
友人たちとワイワイ歩くのも大好きだが、
こうやってもくもくと歩を進めながら考え事をすると体の火照りに伴って頭もよく動いてくれるような気がする。
そしてお待ちかねの眺望。
Trail自体は木々が生い茂り何も見えないが、この開けた岩場は景色や日の光を遮る木々はない。
かわりに眼下にはDeep Coveの町や奥に伸びる海、行き交う帆船やボートを内包した調和。なんとなしに落ち着きを与えてくれる。
つい前日にSummer Time に切り替わり、時刻のわりに辺りは明るい。
私が挙げる写真を見てお察しの方もいるかもしれないが、私は夕暮れの景色が好きだ。
今回も日が落ちるまで待つことにした。
ふもとで買ったハニードーナツをほおばりながら
捗る考え事、ペンも快くはしる。
危機の始まり
そうこうしているうちに日が暮れ、辺りは桃色やオレンジを帯びだした。同時に町にも点々と明かりが灯る。
空が青かったときには溢れんばかりの人がいた展望岩場も人影はまばらになっていった。
構わずカメラに夢中なりょーすけ。
Whistlerで解禁してみたアートフィルターを何通りも試したり
恥ずかしながらセルフタイマーで景色と自分を一緒に撮ってみたり。
そろそろ帰ろうか、と思ったときには
空を占める割合は昼より夜がまさっていた。
そしてその岩場には僕しかいなかった。
アッ・・・。
嫌な予感がした。
大晦日に遭難を経験していた私の勘は正しかった。
※大晦日の遭難についてはこちら。
Wreck Beach で遭難した大晦日 - スケッチ!UBC
すがすがしいぐらいのデジャブ。
道が見えない。
Deep CoveのTrailを歩いた方は分かるかと思うが
遊歩道というほどしっかりしている箇所はごくわずかで
結構ざっくりした道である。明かりがないと判別は難しい。
しかも前回同様、行き路と帰り路では全く別物の道と同然だ。
人影は全くない。
まぁまぁ、とか思いつつiPhoneの懐中電灯機能に頼って歩いてみたら
滑落した。
道だと思っていた場所が全くもって道ではなかったのだ。
これは道を見つけつつ帰るのは困難だと判断した。
ごくまれに木々に反射板がついていることもあったが、iPhoneの弱い電灯では反応しきれない。
おまけに滑落後這い上がる過程で
iPhoneの電源が突如落ちた。
先日Whistlerに行った際も頻発したのだが、最近私のiPhoneは良く分からないタイミングで電源が落ちて、しばらくしないと再起動できないのだ。
明かりが消えて、森の中、漆黒の闇。
ちびるかと思った。
iPhoneの復活を待って、やっとのことで展望岩場に戻った。
どうしよう。
帰れない。
今回はリアルに帰れない。
そのとき、ふと
遠くから聞こえる川のせせらぎの音に、ひらめいた。
そうだ。
川にそって歩いていけば必ずふもとにつく。
ふもとに降りさえすれば後はなんとかなるはずだ。
iPhoneに大いに不安を抱えながらも
最後の挑戦と意気込んで、川を目指すことにした。
川には案外5分ほどでたどり着いた。しかし安堵は訪れなかった。
照らしてみると、川は本当に未整備の川であり、それに沿って縦横無尽に横倒しになる木々、荒い岩が。
そして結構急であり、明かりの弱い中で歩くにはあまりに危険な様相だ。
そして、お前狙ってるだろ絶対、ってタイミングでまたiPhoneが落ちた。
漏らすかと思った。
川沿いで身動きがとれないということで凍えながらも
iPhoneの復活を待って
お察しの通りふたたび展望岩場に戻った。一連の流れの中で岩場への道に結構精通したが、これで帰れるというものでもない。
おいおいおいおいそれは、それはさすがに、いやさすがに、さすがにないでしょいやいやいや
と思っていたことが、川下り作戦の失敗とともに現実化した。
こ こ で 、 夜 を 明 か す し か な い ん だ 。
周囲をまわってみた結果、多少なりとも町の灯りが見える岩場にくらべ
森の中は真っ暗で心細いし野生動物の遭遇リスクもあがるのでは、と思ったので
岩場に滞在することに決定。
さきにも触れたが、Summer Timeの導入により日の出の時間も後ろ倒しになる。10時間の暗闇はカタい。
よくある留学の意義として、自分再発見♪とか、自分を見つめなおす♪とかあるけど
まとめて10時間も与えられたら見つめなおしまくれるなぁとたじたじだったのを覚えている。
こうして長い長い夜がはじまった。。。。
展望岩場での一夜
野宿のイイところ① 夜景が綺麗
そういうわけで撮ったのが最初の写真である。
Deep Cove全体の夜景というのは相当レアなのではないだろうか。
野宿のイイところ② 自然の織りなす映像との出会い
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星空
途方にくれながら寝そべってみると、そこには満天の星空。町の灯りも決して多くないDeep Coveにおいては星がよく見える。
分かりづらいかもしれないがこちら北斗七星。
星空の撮影技術を体得しておくべきだった。
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月が昇る
闇というのは不安にもなるし心細くもなる。太陽が恋しい。
そんなときだった、東の空から煌々と紅の月が顔を出した。
さながら太陽のようなこの写真。
月がでた、というだけで自身の影をはっきり認知できるほどに明るくなった。
月も地球を照らしうるのだ、という当たり前なような忘れがちなようなそんな事実を目の当たりにする。
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月の光
やがて月はその赤色を滅し、空の階段を登るにつれて黄金に染まった。
Deep Coveの海は一般的な「海」というものから想起されるような「波」は起こらず、
水面は至って落ち着いている。
そしてそこに月が光をこぼし・・・
水面にうつる月の光がゆらゆらと揺れ、
言葉にならない幻想的な空気をかもしだす。
ドビュッシーの誰もが知る名曲、『月の光』の映像そのものだ。
水面に揺れる月、溜息のもれる美しさ。
ドビュッシーの見た景色もこれに同じなのだろうか。「音の画家」たる彼の筆のはしらせ方には改めて舌をまく、同時にこのときの彼の美はまだ発展途上だったことにも驚かされる。この景色を踏まえれば彼の筆づかいがいかに視覚を聴覚に落とし込めているかに感心せざるをえない。
時間がたつにつれて水面の光のとらえ方は微妙な変化をみせ、瞬間瞬間に違った色めきをみせていた。
野宿のイイところ③ 考える、考える
なにせ電波なんてないし、暗くて字の読み書きもできない。
一通りの写真を撮り終わるともうやることは限られる。
自身の頭を使うぐらいしかないのだ。
これまでの人生のこと、いろんな「人」のこと、…
主にこれまでの回想を中心に、じっと考えるよい時間になった。
そしてテッペンをこえ、時刻は深夜一時。まだまだ先は長い。
野宿のワルイところ① 寒い
絶景に酔って写真を撮って、という風に楽しんでいられたのもわりと序盤のみだった。
なにせ、寒い。
3月とはいえ暖かいのは昼間のみ、寒暖の差は大きく夜は平地でも0度に近い。ましてここは山の上だ。
そして昼間に帰るつもりだったので衣服も防寒対策ばっちり、なわけがない。
おかげでたいそう寒い。
せめて、ということで
さきほど買ったTシャツを重ねてみた。
・・・効果はいまひとつのようだ。
じっと座っていると感覚がなくなりそうなので岩場をランダムに動いて熱を生む。
野宿のワルイところ② 怖い
火をおこしているわけでもないので、
熊の類の野生動物が突然現れてもおかしくない。
寒いから冬眠してるでしょ!! とかポジティブに考える。
でも物音したり遠くの方から何かが吠える声がきこえたりするから、そのたびにちびる。ちびり頻発。
折りたたみ傘を伸ばした状態で万一のときの「戦い」に備えていたし
なんかの遠吠えがきこえたときにはiPhoneに遺書をしたためることも本当に考えた。
野宿のワルイところ③ お腹が減る
軽いなりにも登山ということで水は持ってきていたが登り切ったときにほとんど飲みきってしまった。
食べ物はふもとで買って食べてしまったドーナツのみ。
当然お腹が減る、が、どうしようもない。
ポケットをごそごそするとWhistlerでもらった飴ちゃんを発見。これで飢えをしのぐ。まぁ無理。
深夜のテンションというか元気づけのためというか
アンジェラアキの歌ききながらアンジェラアキっぽく歌ったり(ひとりで)
XJAPANききながらYOSHIKIっぽくエアドラムしてみたり(ひとりで)
突発的に「へぇぇぇぇぇぇぇるぷっっ!!!!!」って叫んだり(案の定誰も来ない)
だんだん動く元気もなくなってきて、
風をしのげる岩のスキマ的なところにチョコンとおさまり
申し訳程度の風よけとして折り畳み傘をひらき(武器としての使用はもはや諦めた)
体育座りの状態に上着をかぶせて
じっと朝を待つ。
すぐに足の感覚はなくなった。
眠りたくても、なんとなく寝たら凍死するんじゃないかって気がして怖い。
野宿のワルイところ④ 本当に、寒い
ここにきて最凶の敵が現れた。
霧だ。
霧がでることによって道を発見するには一層の明るさが必要になり、下山は遅れる。
そして何より、霧は体感温度を下げる。
もともと沖合に確認できた霧だったが、いまや岩場に迫っている、岩場を飲み込もうとしている。
ここに来て絶体絶命だ。
野宿のワルイところ⑤ 本当に本当に、寒い
迫りくる霧。限界に近い体力。
これはいかん、と動転し、じっとしていてもいけないだろうと踏み出した瞬間
\ジャバン/
…ジャバン?
!!!!
突如右足を刺す冷気。
そう。泥水の水溜りに突っ込んでしまった。くるぶしのあたりまで。
お分かりいただけるだろうか。ただでさえ凍てつく寒さの中でくるぶしまで冷水に浸った足の南極っぷり。
はぎゃぁでげいぃぎぎぃえぁああぎがっぎがばああがば・・・
みたいな声が20分くらい漏れ続けた。
※明るくなった後に撮った事故現場、と、すっかり浸った靴と靴下
野宿のイイところ④ 朝霧
それでも。
霧がもたらすのは寒さだけではない。
ちょうど向かいの山々の中腹までが霧に覆われ、辺りはあたかも天上の世界。雲の上に島々が浮かぶかのような図に。
これは天国ではあるまいか。
あるいは本当に半分死んでいたのかもしれない。
こうしてだんだんと朝が近づいてくる。
霧と共に訪れた朝はなかなか神秘的だった。
霧は太陽をも遮る。結果、輪郭のはっきりとした日の出に。
生還
こうして霧に包まれた太陽を拝んだ。
そして、凍る右足を引きずってなんとか下山。
下山途中の木漏れ日を渡って天国に行ってしまおうかと思った。わりとまじで。
ふもとも霧に包まれていた。
さっそくハニードーナツに駆け込み
温かいコーヒーをば。
一生で最も、ぬくもりにあふれたコーヒーだった。
俺、生ぎでるよ゛!!!!!!
そしてちゃっかり前回試せなかった味のドーナツを堪能し、帰路についたのだった。
おかげで当然授業には間に合わないし、図書館の本を返し損ねたり宿題を出せなかったり災難は尾を引いたが
命があれば。命があればそれでよいのだ。
なんというか、余すことなく、という言葉がこれほどはまる滞在も珍しいだろう。
思い出の地、Deep Cove
自然の雄大さ、命の尊さを思い知った一夜であった。
が。もう行ぎだぐない゛!!!!
生ぎたいっ!!!!